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不可解なこだわり [気になるモノ・コト]

ちょっと遅れたニュースになりますが、3月8日に次世代ディスプレイの一つ、「SED」の今年中の発売を目指していたCanonと東芝が、発売を2007年第4四半期、つまり来年の年末商戦まで延期すると発表しました。

SEDの発売時期等について(Canon・東芝のプレスリリース)

東芝とキヤノン、SED搭載TVの発売は2007年第4四半期 -年内出荷は断念。2008年北京五輪商戦がターゲット (impress AV Watch)

SEDとは、「Surface-conduction Electron-emitter Display」の略称で、日本語に直せば「表面伝導型電子放出素子ディスプレイ」。まぁ、ものすごく平たく言うならば、

ちょ~ちっこくしたブラウン管を、たくさん(たとえばフルHDなら1920×1080ドット×3原色分=622万個)並べたディスプレイ

といったところでしょうか。

ブラウン管と発光の基礎原理が同じなので、液晶より視野角が広く動画に強い。プラズマより発光効率が高いので、色再現性も高く消費電力が少ない、というまさに「夢の次世代ディスプレイ」というのにふさわしい性能を持っています。

しかし、色々な会社がこのSED(「SED」はCanon独自の呼称なので、普通はFED(電界放出ディスプレイ)と呼ばれる。ちなみにSonyも有機ELと並んで次世代パネルとして研究中。)をものにしようと奮闘してきましたが、基礎原理は簡単そうでも、量産化が非常に困難らしく、ほとんどの会社が脱落していき、今では双葉電子とCanonぐらいしか試作品を表に出してきません。

それでもCanonは根気よく開発を続け、液晶でもプラズマでも出遅れた東芝と組んで、念願の「テレビ事業進出」を目指して頑張ってきたわけです。

それがまさかの約2年の発売延期。

原因は色々あるでしょうが、液晶やプラズマの価格が急激に下がり、今発売しても競争力が無いとの判断もあるようです。

それにしても、このCanonのテレビ事業進出へのこだわりは相当なもので、ちょうど10年前は「強誘電性液晶」という独自の液晶でディスプレイ市場に挑み、あっけなく失敗に終わっているという苦い経験まであります。

そして今日になって流れたニュースがこれ、

キヤノン社長:SED使用のテレビ事業「やめない」(毎日MSNインタラクティブ)

いやはや、ここまでくると御手洗社長も意地になってるとしか思えなくなってきました。今から2年後になると、液晶・プラズマもさらに価格が下がるのは間違いないですし、表示性能も上がって、SEDの高画質というアドバンテージもどこまで通用するのか怪しくなってきます。

どんなすごい技術も、製品として競争力が無ければ、表に出ることなく消えていくのは歴史が証明しており、Sonyがその昔大々的に取り組んだ次世代ディスプレイも、あのSHARPとまで手を結んだのに、結局日の目を見ることなく消えていったりしています。

はたしてSEDがこういう運命にならずにすむのか、今回の大幅延期で予断を許さない状況になってきたのでは無いでしょうか。

昨年開かれた「Canon EXPO」では(impressの記事はこちら)、SEDだけに終わらず、

ビクターからD-ILA(SonyのSXRDと同じプロジェクター用反射型液晶デバイス)の供給を受けて、フルHDリアプロまで開発中と、

テレビ事業参入に並々ならぬ力を注ぎ続けるCanon。

最新の決算(PDFファイル)を見ても、事務機事業も、カメラ事業も、その他光学機器事業も、みんな安定して十分儲かっていると思うのですが、やはり将来的な成長が見込めないってことなんですかねぇ。

でもテレビ事業も過当競争と言っていいくらい、世界的な競争が激しい市場。そんなにうまみのある事業とも思えません。

このCanonの不可解とも言えるほどのこだわり、どんな結末を生むことやら、Canonは結構好きな会社なのでちょっと心配です。


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コメント 4

arkstar

SED実際どうなんでしょうね。
最初にフルHD達成のFDPは液晶でしたし、
懸案だった視野角もほぼ180度になりましたし(ソニーパネルで178度)、
応答速度も日々高速化していますよね。
その上、50インチ超えはムリと言われていたのに、アッサリと80インチ級が出て来たりと、サイズでもプラズマを侵食していて、
2年後にSEDが市販できる時に液晶TVが全ての面でSEDを凌駕してしまっている気もするのですが(^_^;)
次世代TVの本命と目されていた時期も有りましたが、昨年終り(2005年末)までに商品化出来ていないとなると、商業ベース的にかなり厳しそうなのですが。
by arkstar (2006-03-11 10:55) 

そよかぜ

うーん、想像以上に特殊な部品や原料が多くて初回ロットから
大量生産しないと安価で調達が難しいみたいですね。
少しずつ増産して単価を下げる作戦では追いつかないと判断したのでしょう。
それでも高級液晶並(Xシリーズ)の価格まででしょうから、
画期的なアイディアが生まれないとキツイかな。
現場も安価な代替素材の研究で夜も寝れない状況。
でも2年後だと有機ELの方も立ち上がってきてしまいますね・・・。
まあこっちは最初は小型主流なのでいいですが、最終的には
壁一面とか言ってますからSED茨の道ですね。。。
by そよかぜ (2006-03-11 11:46) 

akoustam

>arkstarさん
コメント&ナイス投票ありがとうございます。

何事にも「タイミング」ってものがありますからねぇ。SEDも「液晶・PDPの次の世代のテレビ」って言えるほどのブレークスルーはありませんし、今年出せないようでは、もう競争力を確保するのは難しいかもしれませんね。

薄く・大画面・高画質の次の世代のテレビってなんでしょう。答えはロケフリ=モバイルテレビにあると思ってますが(となると久しぶりにグラストロンのようなHMDものが来る?(^^;))
by akoustam (2006-03-13 23:56) 

akoustam

>そよかぜさん
コメント&ナイス投票ありがとうございます。

さすが電機業界の裏事情にもお詳しいそよかぜさんだけに、なにげにすごい情報が、
>現場も安価な代替素材の研究で夜も寝れない状況。
なるほど、上は経営上の都合もあって発売計画を先走って発表しちゃったけど、実は液晶・PDPに対抗しうる価格に下げるには、安価な代替素材を探さなくてはいけない状態で、開発の最前線の現場は大弱りって構図なんですね。

僕は有機ELに大きな期待をよせているんですが、こっちはこっちで寿命問題が片づかないようでして…
by akoustam (2006-03-14 00:20) 

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