『アリス・イン・ワンダーランド』3D-4方式(?)連続鑑賞レビュー [日記]
今年は3Dテレビ元年といわれています…ってどこかで見たような始まり方ですが(笑)、おかげさまで映画そのものの威力と、3Dテレビ元年にふさわしい電機メーカー各社の盛り上がり、そして読者の皆様のご協力もあって、拙Blog記事「『アバター』3D全方式完全制覇レビュー」は大好評を得ることが出来ました。
この場を持って改めて皆様に御礼申し上げます。
で、当世3D映画上映方式事情も存分に伝わったし、一日半で4回も3D長編映画を観るなどというアホなことは、もう二度とすることはない(実際目や耳が疲れるんです…)だろうと、このGW一番の話題となっていた『アリス・イン・ワンダーランド』も、ゆっくりと川崎のIMAX3Dデジタルで観る予定を立てていたのですが、ある日twitterフォロワーの@minivelo451さんから、一つのリプライが飛んできます。
「なぬ?MatserImageですと?そんな新しい3D方式がまた現れたの?」
さっそく検索してみると、確かにそういう方式が存在しています。
MasterImage3D(MASTERIMAGE 3D,LLC)
Webサイトの情報によると、MasterImage3DはRealDと基礎原理が同じ『円偏光フィルター3Dメガネ方式』。高速でコマを描き換えることが出来るDLPプロジェクタの特性を活かして、秒144コマで左目用の映像と右目用の映像を、1台のプロジェクタで秒72コマずつ交互に投写していく方式となっています。
このMasterImage3Dは、今回の『アリス・イン・ワンダーランド』の日本公開にあわせて、東急レクリエーションが有楽町の「丸の内ルーブル」と「109シネマズ高崎」に導入していて、同じ東急レクリエーションが導入を進めている(今後2年間で国内4スクリーンからさらに5スクリーン増設予定)IMAX3Dデジタルとは違う、第5の方式として推進していく戦略のようです。
さらに時を同じくして、僕がSonyのSXRDプロジェクタVPL-VWシリーズの情報を得るために昔から読ませていただいてる、mkuboさんのBlog「ぶっちゃけ雑感帳(旧:Blu-world Watch)」にこんな記事が掲載されます。
新百合が丘のRealDが素晴らしすぎる件について(ぶっちゃけ雑感帳)
なんと以前「IMAX3Dデジタルの次にお勧め」としていたRealDが、より明るくなった「RealD-XL」という新方式を一部で始めているというではありませんか(後コメント欄で紹介されたBlogによると、確かに那覇のシネマQという映画館に導入されているNECのDLPプロジェクタに、「realD“XL”」というロゴが入っています)。しかもmkuboさんのお話では、前回アバターでも観に行ったワーナーマイカル新百合ヶ丘がその可能性が高いとのこと。
こうなるとアバターで『国内3D全方式完全制覇』を宣言した者として放っておくことは出来ません(笑)。高らかに「二度とやらない」宣言を撤回し、
「RealD-XL、RealD、MasterImage3D、IMAX3Dデジタルという“偏光フィルター4方式”の映像の違いを比較するために、4方式全てを一日で連続して一気に鑑賞する」
という無謀なことを、今度は『アリス・イン・ワンダーランド』でやってみることにしました。
決行日はGW最後の5月5日。まずは朝一番から「RealD-XLではないか?」と言われているワーナーマイカル新百合ヶ丘に向かいます。
■RealD-XL方式(?)
結論から先に申し上げると、実はこの「ワーナーマイカル新百合ヶ丘・1番スクリーン」が、果たしてRealD-XLなのか確証は持てないまま鑑賞は終わってしまいました(涙)
一応Webサイトでは、今回のアリスで混雑が予想されるために、GW前に急遽「新百合ヶ丘で最大席数を誇る1番スクリーンにRealDを導入した」という情報だったので、ここなら間違いないだろうと思ったのですが、実際に鑑賞した感想としては「これ、アバターのときと映像の質が同じじゃない?」という感じだったのです。やはり「この映画館の○番スクリーンはRealD-XL」という確かな情報を得てから観るべきだったかもしれません。
とはいえ、新しい収穫が一つ。
前回のアバターは全方式字幕版、今回も残りの三館では字幕版を選択したのですが、この新百合ヶ丘だけは上映時間の関係で吹替版を観たのです。
で、アバターのときに出した「3Dは字幕を追うのが大変なので、字幕版より吹替版のほうが良い」という自分の結論は間違っていないことを確認出来ました。やはり字幕版は視線をあちこちに飛ばす必要性から、映像に対する没入感が低下し目も疲れやすくなるのに対し、吹替版は確実に映像に集中することが出来ます。ただ字幕版との訳の違いや声優が大根役者だったときは、ガッカリになることもあり得るので、選択は慎重に行ったほうがよろしいでしょう。
3Dメガネはおなじみの円偏光方式・持ち帰り可のRealD。ワーナーマイカルでは特製アリスの袋に入って渡されました。
こういうのは良い思い出になると思いますので、やはりRealDはお子様連れの方に一番オススメ出来る方式だなと再認識しました(実際吹替版は周りの観客も年齢層がかなり低めでした)。
そして今回はレビュー用に新兵器を導入。
デジタル表示のキッチンメーターで3Dメガネの重さを測定します(最小0.5g単位)。公称値が59.5gとなっているXpanD方式の3Dメガネの半分以下の23.5gという重さ、これなら長時間掛けたり、近視用眼鏡とメガネonメガネで重ね掛けしても、不快になりにくいわけです。
というわけでRealD-XL方式がどんなものなのか、決定的な差を体感できないまま終わってしまいましたが、今度は設備を更新していなくて確実にRealD方式であると思われる、ユナイテッドシネマ豊洲に移動します。
■RealD方式
このユナイテッドシネマ豊洲の1番スクリーンを選択したのは、前述したとおり「アバターの頃から3Dが導入されているので、RealD-XLではないノーマルのRealDのはず」だから。実際鑑賞してみると、音響設備やスクリーンの大きさに違いがあるので多少の差異は見られますが、全般的な画質に関してはワーナー新百合ヶ丘とほぼ同等でした。
ここでは既にアリスのストーリーも把握してしまったし、画質に関して色々と調べてみようと3Dメガネを外した状態で映像を見たりしてみました。その結果分かったのは、
・RealDのメガネが持つ円偏光フィルターは映像を少し青っぽく変えてしまうため、フィルム的な暖かみが微妙に損なわれる。
・メガネのフィルターによる光量低下が大きいことから、やはりプロジェクタの輝度の高さが画質向上には重要であると考えられる。
といったあたり。つまり同じRealD方式を採用していても、映像を投写するプロジェクタのランプが交換直前で輝度が落ちていたりすると、画質が違ってきてしまうことがありえるので、いかに設備の手入れが行き届いた映画館であるかも、映画館選びの重要な要素であると再確認しました。
そして今回の連続鑑賞の本命と言っても良い“第5の方式”MasterImage3Dである、有楽町丸の内ルーブルに向かいます。
■MasterImage3D方式
この丸の内ルーブル、運営こそ109シネマズと同じ東急レクリエーションですが、1映画館に1スクリーンという昔ながらの「映画館」。多スクリーンのシネコンに慣れた身からすると、映画館というより劇場に来たような感じで、ちょっとノスタルジックさを醸し出しています。
実際に席も急傾斜で前列の人の頭が気にならないようにしてあるスタジアム形式ではなく、緩い傾斜で並ぶカタチになっているので、運悪く背の高い人が前席に来てしまうと、ちょっと見にくくなってしまいます。
MasterImage3Dは冒頭に書いたとおり、基礎原理は円偏光フィルターで左右の映像を分離するRealDと同じもので、3Dメガネも同じく持ち帰り可の軽量なものが配られます。
XpanDやDolby3D、IMAX3Dデジタルのメガネと違ってテンプルが折りたためるのもRealDと一緒。ロゴが入っていなければ、ここがMasterImage3Dという異なる方式であると気づかないかもしれません。
パッと見だと、すこし幅の広いメガネに見えるのは、
RealDのメガネよりフィルター面が少し横長だからかもしれません(左:MasterImage3D、右:RealD)
実際のサイズはほとんど同一(左:RealD、右:MasterImage3D)
重さも0.5g差と、ほとんどメーターの誤差レベルの差しかありませんでした。
なので、RealDとさして変わらないだろうと期待をせずに鑑賞を始めたのですが、これが観てビックリ。
・RealDより画面が明るい
・IMAX3Dのように3D映像の前後位置関係がきっちり決まっている(立体感の破綻が少ない)
・全般に映像がしゃっきりしていてRealDより解像感が高い
だったのです。
基礎原理が同じで(円偏光+144コマ投影)、メガネに互換性がある(MasterImage3D鑑賞中にRealDのメガネを掛けてみたら、何の問題もなく立体映像を観ることが出来た)など、大きく差がつきそうなのは映画館毎のプロジェクタの違いぐらいしか思いつかないこの二つの方式。もしかしてMasterImage3D独特の、この4,320rpm(分速4,320回転)で回転する偏光フィルター(この回転体をプロジェクタの前に設置することで、スクリーンに投影する映像に順次円偏光をかける)が高画質の秘密でしょうか。単純に丸の内ルーブルのプロジェクタが高輝度で優秀なだけかもしれませんが…
というわけで、この段階で前回のアバターの時の評価にMasterImage3Dの結果を加えると、
・立体感 MasterImage3D=XpanD≧RealD>Dolby3D
・画面の明るさ MasterImage3D>RealD>Dolby3D>XpanD
・色の良さ Dolby3D>MasterImage3D=RealD>XpanD
・メガネの使い勝手 MasterImage3D=RealD>Dolby3D>>>XpanD
・総合 MasterImage3D>RealD>Dolby3D>XpanD
という判定となりました。てっきり安上がりなシステムと高をくくっていたMasterImage3Dが、これだけの画質を出していることに驚き、最後の締めとして109シネマズ川崎に向かいます。
■IMAX3Dデジタル方式
前回の記事を読まれた方にはもはや説明不要ですかね。僕は現時点で国内最高の3D方式だと思っているIMAX3Dデジタル。先ほどのMasterImage3DはIMAX3Dデジタルをも上回れるのか早速鑑賞してみました。
その前にメガネの重さを測定してみると、
37gとRealD/MasterImage3Dより+13g、XpanDより-22.5gというちょうど中間ぐらいの重さにあることが分かりました(テンプルが折れず測定台に乗りきらないので、VAIOのケースを土台にして量っています)。
大きさはRealD/MasterImage3Dのメガネを完全に一回り上回るサイズ。
これなら頭が西洋人より幅広という東洋人でも掛けられないと言うことはないでしょう。
アバター依頼久々のIMAX3Dデジタル体験でしたが、相変わらず他の映画館を引き離すのが音響の良さ。今回のアリスは予告編に、僕らの世代には懐かしい映画「トロン」のリメイク版「TRON LEGACY」が流れていましたが、その音の迫力にも圧倒されてしまいました。こりゃ年末は「トロン」で3D方式比較…いえ、何でもないです(笑)
そしてIMAX3Dデジタルの映像は相変わらず、
・画面が明るい
・立体感きっちり(奥行きの前後関係の違いもよくわかる)
・字幕が最も読みやすい
・首を傾げたら即ゴースト
というもの。さすがのMasterImage3DもやはりIMAX3Dデジタルには及ばず、という評価になりました。
以上のことから、今回“第5の方式”MasterImage3Dを評価に加えて、
・立体感 IMAX3D>>MasterImage3D=XpanD≧RealD>Dolby3D
・画面の明るさ IMAX3D>MasterImage3D>RealD>Dolby3D>XpanD
・色の良さ Dolby3D>IMAX3D>MasterImage3D=RealD>XpanD
・メガネの使い勝手 MasterImage3D=RealD=IMAX3D>Dolby3D>>>XpanD
・総合 IMAX3D>>MasterImage3D>RealD>Dolby3D>XpanD
と言う判定となりました(RealD-XLはまた機会があったらチャレンジしてみます)。とりあえず群馬県にお住まいの方は「109シネマズ高崎にはIMAX3Dデジタルこそ無いけれども、MasterImage3Dという新たな選択肢がある」ということは覚えておいて損はないと思います。
■まとめ
今回、残念ながら「IMAX3Dデジタルより上」という評価も出ている、RealD-XLの能力を完全には確認出来なかったわけですが、MasterImage3Dの国内登場も含め、この3D映画の上映方式は日進月歩でまだまだ進化していくんだなとつくづく感じました。
アバターと違い、アリス・イン・ワンダーランドは基本的に2Dカメラで撮影され、CG部分とコンピュータによる修正で3D映像化された作品であるため、アバターほどの強力な立体感(奥行き感)は無かったのですが、それでも折角特別料金を払う3D映画ですから、少しでも高画質で見たいもの、ベストの選択を求めて映画界の試行錯誤は今後も続いていきそうです。
え?アリスの映画としての感想?そこらへんはやっぱりお察しください(笑)正直一日で4回観るのは苦痛でしかなかった、とは申し上げておきます。ティム・バートン監督、もうちょっと工夫があっても良かったんじゃない?マンネリ化してきてると感じるよ。
では、皆さんも3D映画を楽しんできてください!
お疲れ様でした! 記事の公開を楽しみにしていました。
重量比較は嬉しい要素でした。
MasterImage3Dは方式的にRealDとどう違うんでしょう?
明るさが有利というのはプロジェクターの性能によるもの
なんですかね? 2台のプロジェクターを使っているIMAX
方式でそれで円偏光ができたら、それが最強になりそう。
3D全方式の見比べなんてやったことはありませんが
まねしてみたくなります。
by 店員佐藤 (2010-05-29 07:56)
う~ん…akoustamさんが連続視聴されても苦痛でない
『映画の質』の問題が3D映画普及の一番大切な要素のようですね…(笑)
by 蔵三 (2010-05-29 08:15)
毎度毎度ご苦労さまです!
とても参考になります。
今度は店員佐藤さんと一緒に見比べてやってください(笑)
by Hiroki (2010-05-29 08:20)
参考になりました。
もっともっといろいろと知りたいですね。
今後どの方式がどのように普及していくのかちょっと楽しみに
なりました。
どうもお疲れさまでした。
by Santa (2010-05-29 15:23)
アバターい続き、アリスも4回鑑賞とは、恐れ入ります。akoustamさんの努力の成果をしっかりと噛み締めて、3D映画を見に行くときはしっかりと上映方式を確認してから劇場に足を運びたいと思います。
by as (2010-05-29 17:19)
おじゃまします
2度目の比較鑑賞お疲れ様でしたm(_ _)m。
いつもながらとっても参考になるこの記事、技術の日進月歩を感じさせてくれます。
年末の「トロン」も?このときどんな技術が現れているのか?も気になるところですね^^。
by K (2010-05-29 19:19)
アバターのレポートの方にコメントしたんですが、こちらに転載します。
私の3D映画体験レポートを。
3D映像は見る距離によって立体感が違ってきます。
理屈はわからないのですが、昔ステレオ写真を趣味にしてましたので体験で知っています。
実は、画面から離れて小さめの画面で観た方が立体感が出ます。
アバターはIMAXで3回距離を変えて見ました。最も良い鑑賞ポイントであるはずのエグゼクティブシートでも立体感は不足ぎみで、後ろの方の席でで観たときが一番立体感があり、バストショットでの人物の頭の丸み、鼻の出っ張りなども自然な立体感で観ることができました。そのかわり画面がちいさく見えるので当然ながら迫力は不足します。
迫力と臨場感をもとめて前の方で観た人もいると思いますが、ただでさえ画面の大きいIMAXで前の方の席で鑑賞してしまうと、残念ながらかなり立体感は損なわれます。
大画面の迫力と自然な立体感を両立させるには、撮影時に左右のカメラを離したり、画角を広くするなどの方法があるのですが、そのあたりのノウハウが作り手にまだ不足しているように思えます。
と言うのは3Dカメラの解説では、二つのレンズを人間の左右の目の距離(約7cm)離したカメラを使うということが当たり前のように語られますが、この距離で自然な立体感を得られるのは、人間の目に近い画角の広角レンズに限られるのです。したがって3D映画で人物のアップなどを自然に撮るためには、ズームは使わず被写体に近づく必要があり、通常のレンズテクニックを見直さなくてはならないのですが、その必要性さえ認識されていないように感じます。
アリスも2回観ました。もう一度後ろの方の席で吹き替え版を観るつもりです。
機会があったら、距離を変えて観るのを試してみてください。
by om (2010-05-30 02:12)