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Sony United [Sony・全般]

既報の通り、Sonyの新経営陣がこの先二年半を見通した「中期経営計画」を発表しました。

先週の日経の大誤報以来、報道やSonyの株価上昇など、様々な憶測が乱れ飛んだこの新経営計画ですが、思ったより地味な内容だったなぁという印象です。

QUALIAの事実上の凍結、ロボット事業の縮小など、わかりやすい象徴的な部分が取り上げられますが、今回の計画の目玉は「あれを止める」「これを始める」といったプロダクトの話ではなく、1994年4月より11年半続いた、Sonyの会社組織の基本概念“カンパニー制”を、ついに終わらせる決断をしたことでしょう。

いったいこの“カンパニー制”とは何だったのか、現在たどることが可能な1995年末からのSonyのプレスリリースを見ながら、その歴史を検証してみようと思います。

Sony History 第2部第24章 第5話 「事業本部制」から「カンパニー制へ」

まずこのSonyのカンパニー制の基本的な考え方は、Sonyという巨大企業の中に、各事業ごとに「○○カンパニー」という小さな会社を作って、それらが独自に判断・行動することで、より小回りのきく機動的な経営を実現しようというものです。

各カンパニーのトップ(プレジデントと呼ばれる)は社長並みの権限と責任をもち、それぞれが財務担当から人事権・投資決裁権までもっていて、独立採算でカンパニーの成果が個々に評価される。まさに「小さな会社の集合体」という組織になっていました。

これが理想的に機能すれば、カンパニーは小さめな組織なので、市場の変化に柔軟かつ迅速に対応でき、カンパニーごとに経営責任の所在が明確になるため、Sony全体で見れば黒字も出やすくなるという経営形態になるはずでした。

しかし、時代は古き良きのんびりとした、日本のアナログ技術企業同士の対決の時代から、デジタル技術とネットワーク技術による、今までの概念を越えた世界大競争時代へと移行し始めているころ、DOS/VやWindows95が登場し、それまで日本語という障壁で守られていた日本のPC業界が、世界市場と直結することになり、我が世の春を謳歌していたNECのPC-9801が、あっという間に没落していったのもこの時期です。

このスピードを要求される時代の変化に、Sonyのカンパニー制は翻弄されていくことになります。

1996年4月、Sonyの創立50周年に向け機構改革が行われます。製品分野ごとに8カンパニーから10カンパニーに増加し、この1年後に登場するVAIOでPC市場に再参入するための、「インフォメーションテクノロジーカンパニー」が誕生しました。

そのプレスリリースを見てみると、そのこと以上に気になる一文があります。

・エグゼクティブボードの設置
>「エグゼクティブボード」のメンバーは、カンパニーの独自性を最大限尊重する一方、カンパニーの枠組みにとらわれず、横断的・大局的に経営する機能を強化するため、それぞれの担当を決めて、全社的な見地からカンパニープレジデントへの助言・指導・調整などにあたってまいります。

すでに開始から2年で、「各カンパニー間の連携が悪いことで、カンパニーを横断するような新ジャンルの製品を生み出せず、同時に似たような製品がいくつも出てきてしまうこともある。」という後々Sonyを苦しめることになる問題点が露呈しているのです。

このときは「エグゼクティブボード」という形で対策しようとしていますが、結局はうまくいかず、ここから何度もSonyは機構改革を繰り返すことになっていきます。

1996年4月の組織図

3年後の1999年4月、「21世紀に向けたソニーの企業改革」と題して大きな機構改革が行われます。この時の目玉の一つは、ソニー・ミュージックエンタテインメント(SMEJ)の100%子会社化。その結果SMEJの子会社でもあった、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)もSonyの100%子会社になります。プレイステーション事業がSonyに取り込まれた瞬間です。

そしてもう一つの目玉が、「カンパニー」を事業ユニットごとにまとめた「ネットワークカンパニー」の誕生です。この結果10に分かれていたカンパニーは、

・テレビ・ビデオ・オーディオといった、従来からあるエレクトロニクス事業ユニットの「ホームネットワークカンパニー」
・PC/ITを担当する事業ユニットの「パーソナルITネットワークカンパニー」(何故かデジカメ・ビデカメ部隊はこっちに入る)
・半導体やメディア・部品などを担当する事業ユニット「コアテクノロジー&ネットワークカンパニー」

の3ネットワークカンパニーに再編され、それにSCEを加えた4事業を「Sonyのコア事業だ」と宣言しています。この時は、

>事業ユニット内、或いは事業ユニット間で、必要に応じてカンパニーの持つ技術・ノウハウを結集し、ベンチャーカンパニーを随時設立します。

の一文に見られるように、カンパニー間をまたがる製品の開発など、カンパニーの連携問題はネットワークカンパニーで解決しろということになっています。

1999年4月の組織図

それからわずか半年後の10月、ホームネットワークカンパニーの中で大きな機構改革が行われます。その組織図を見ると、家庭用テレビ事業・薄型テレビ事業・コンピュータ用ディスプレイ事業・ディスプレイ部品事業が、全て別のディビジョンカンパニーになっており、とてもカンパニーの垣根を越えて、次世代ディスプレイに対応するような開発体制には見えません。

ちなみにこの時、後にBlu-rayを生み出す部門は「ホームビデオディビジョンカンパニー」になっています。

1999年10月のホームネットワークカンパニーの組織図

 

それと同時に、プロ用機器をやっていたB&Pカンパニーと、直轄部門だったデジタルネットワークソリューションが合体し、「コミュニケーションシステムソリューションネットワークカンパニー」が誕生。コア事業ユニットが一つ増加しています。

1999年10月の組織図

それからまたまた半年後の2000年4月、ホームネットワークカンパニーは機構改革を行い、カンパニー制は消滅、事業本部制に移行することになりますおそらくカンパニー間の連携問題が解消できなかったのでしょう、ホームネットワークカンパニーを一つのカンパニーとして組織することになったのです。

今になって思えば、この段階で「カンパニー制はSonyの経営形態にそぐわない」ということに気づいてしかるべきだったのかもしれません。

この時の人事を見ると、現副社長の井原さんは、パーソナルITネットワークカンパニーで、デジタルテレコミュニケーションカンパニーという携帯電話部門のトップに立っています。この後エリクソンと合併してソニエリになるのが、このカンパニー。

2000年8月の「セミコンダクタネットワークカンパニー」の誕生を経由して、2001年4月、ここでとてつもなく大きな機構改革が行われます。

本社機構はグローバルハブという名前で、金融や映画も含めてSony全体を見渡すような形になり、かつての「エグゼクティブボード」を思い起こさせます。またエレクトロニクス本社「エレクトロニクスHQ」なるモノが生まれるのですが、なぜ本社機能を二重にする必要があったのか、今となっては全くの謎です。

そして「ユビキタス・バリュー・ネットワーク」という新しいキャッチフレーズと共に、今までの製品カテゴリーごとに分かれていた組織が全否定され、新しくソリューションごとに七つのネットワークカンパニーに再編されることになったのです。

この時一番割を食うことになったのがVAIO部隊です。それまで一つの組織だったのが、デスクトップVAIO部隊は「ホームネットワークカンパニー」に組み込まれ、テレビなどと同じ「ホーム」というくくりに。

ノートVAIO部隊は「モーバイルネットワークカンパニー」に組み込まれ、ウォークマンやサイバーショットと共に「モバイル」というくくりで分離するハメになったのです。この時からVAIOの戦略がちぐはぐになっていきます。

また運命的だったのは、HDDレコーダ「Clip-on」をやってた部隊。もともとVAIOの「GigaPocket」のチームから派生した製品なので、VAIOと同じパーソナルITネットワークカンパニーにいたのですが、この時ホームネットワークカンパニーに移り「コクーン」に取り組むことになります。

ところが行った先のホームネットワークカンパニーには、ビデオ・DVDの部隊がいません。ビデオ・DVDの部隊は、何故か放送用機器と同じ「ブロードバンドソリューションネットワークカンパニー」に組み込まれていたのです。

後に発売される「コクーン」がなぜDVDを搭載することが出来なかったのか、この時の理解不能な機構改革と、結局取り除くことができずにいる、カンパニーの高い壁が原因でした。

今考えても、この2001年4月の機構改革がSonyの混迷の頂点だったと思います。いくら何でも「持ち歩くもの」という一点で、ウォークマンとVAIOノートとサイバーショットを同じ部門にするとは、乱暴なこときわまりない。

そうでありながら、モバイルの象徴的存在である携帯電話は、デジタルテレコミュニケーションネットワークカンパニーとして全く独立していたのですから、この「モバイル」と「ホーム」でカンパニーを再編する、という考えがまるで徹底していないのは明白です。

これはいったい誰の発想だったのでしょうか。

2001年4月の組織図

2002年4月、もはや毎年恒例行事となりつつあった春の機構改革ですが、この年はテレビと光ディスクに手を付けます。ディスプレーネットワークカンパニーと、ホームネットワークカンパニーと、コアテクノロジー&ネットワークカンパニーに分かれていたディスプレー事業を、ホームネットワークカンパニーに一元化。

記録型DVDなどの光ディスク事業も、ブロードバンドソリューションネットワークカンパニーに統合されることにもなります。

2003年4月、2年前の機構改革の大失敗に気づいたSonyは、再度の機構改革で、昔と同じ製品カテゴリーごとのカンパニー体制にもどします。

ところがここでまた一つ謎な組織が出来ます。「ブロードバンドネットワークカンパニー」の誕生です。

このブロードバンドネットワークカンパニー、製品カテゴリーに関係なく「次世代のエレクトロニクス機器を扱うカンパニー」ということで、ここから「PSX」「エアボード(現ロケフリTV)」「Blu-rayレコーダ」が生まれていきます。ちにみにカンパニーを率いていたのは、プレステの父である久夛良木 さん。

しかし、「スゴ録」をやっていたホームネットワークカンパニーとは別組織で、PSXやBlu-rayをやる意味がどこにあったのでしょう。

結局デジタルレコーダ三ブランド並立という大混乱を呼び起こした後、2004年1月いったん「コクーン」「スゴ録」担当部隊を吸収し、4月の恒例春の機構改革でブロードバンドネットワークカンパニーは、ホームネットワークカンパニーと統合され消滅します。


・・・ふぅ、長かった。

こうやってカンパニー制を導入してからのSonyの11年を見てくると、毎年毎年機構改革を行わなくてはいけないほど定まらなかった経営戦略と、カンパニー間の連携の悪さから来るちぐはぐな製品作り、それを乗り越えるための試行錯誤と失敗の繰り返しの歴史だったように思います。

今回ストリンガーさんは11年に及ぶ大失敗戦略、カンパニー制を完全に廃止、「Sony United」というコンセプトを掲げ、Sony全体を強固な一枚岩の会社に変革する作戦にでました。

この新しいSonyの形が吉とでるか凶とでるか、それは神のみぞ知るところでしょうが、バラバラだったSonyが一つにまとまったとき、果たしてどんなモノが生まれてくるか、これからの2年半を見守っていこうと思った、今回の中期経営戦略発表会でした。

【追記】一部文章を修正し、リンクを加えました。


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コメント 7

読み応えある超大作にお疲れ様の意味もこめてナイス!です。
ソニーと言うと、とにかく新しいことの挑戦する、それは製品や研究開発とかばかりでなく経営体制にも及ぶところを、いろいろと見てきましたが、ここのところ、迷走って印象も少し感じてしまいます。
日本発の世界的なブランドの一つ、なんと、再構築、成功させて欲しいです。
by (2005-09-23 12:08) 

akoustam

>みちあきさん
はじめまして&コメント&ナイス投票ありがとうございます。

ただプレスリリースを追っただけの駄文を、
超大作などとお褒め頂いてありがとうございます。
僕自身もSonyの歴史を振り返ることができたのは良かったんですが、
さすがに疲れました。しばらくSonyのページは見ないかもw
by akoustam (2005-09-24 10:23) 

はまちゃん

長い文章、お疲れさまです。
そうでしたね、VAIO部隊はホームとモバイルに別れるなんて
ことやってましたね。あの頃はソニーのデザインもパッとしない時期でしたし、
これからどうなるんだろう・・って思ってました。
案の定、その時期あたりの失敗が、ずっと尾を引いている感じです。

しかし、カンパニーを作るのが好きでしたね。
横のつながりがうまくいけば、この制度も最強だったんですけど、
いかんせん、勝手に動く別会社になってしまって、
ソニーには向いてない制度だったことが、これでハッキリしましたね。
by はまちゃん (2005-09-24 22:50) 

akoustam

>はまちゃん
コメント&ナイス投票ありがとうございます。

いやぁ、また読んでいただくお客さんを突き放すような、つまらん長文をエントリーしてしまいました(苦笑)。
しかも僕が言いたかった問題点は、TBいただいたnoribo2000さんのブログの方が簡潔でわかりやすいという・・・文章下手すぎですね。

カンパニー制は大賀さんや出井さんの幻想だったんでしょうね。なにか新しい経営手法だからSony向きなんじゃないかという。

VAIO部門もすごかったですけど、オーディオ部門もすごいですよ。
よ~く見てください。この11年間、家庭用オーディオ・ウォークマン・カーオーディオの3部門が一つのカンパニーに集まったことが一度もないという・・・あり得ん(^^;)

これが今回「オーディオ事業本部」にまとまるんですから、このこと一つとっても、Sonyもやっといいモノ作りができそうな気がしてきませんか?
by akoustam (2005-09-25 00:11) 

noribo2000

akoustamさん。はじめまして。非常に丹念にこれまでのSONYの組織変革の経緯をまとめていただきましたので、ブログを書く上でとても参考になりました。今回の構造改革によって、これからのSONYがどう変わってゆくか注目してゆきたいと思います。
by noribo2000 (2005-09-25 00:42) 

akoustam

>noribo2000さん
はじめまして&コメント&TBありがとうございます。

いや~noribo2000さんには感謝です。僕がうまく表現できなかった部分を、見事に書いて頂きまして、思わず「そう、そう言いたかったんだよ~」とPCの前で悶絶してしまいました(w
やっぱり素人が付け焼き刃で経営を語るべきではなかったのかも。
by akoustam (2005-09-25 02:46) 

utushin

こんにちは、utushinを申します。
新型PS3のニュースを見て、ふとSony Unitedのキーワードを思い出し
検索したらここに来ました。

組織図を使っての説明はとても分かりやすく、とても参考になりました。
あれから4年、そしてこれからSonyが良い方向へ変わってくれることを
ただひたすら祈るばかりです。

by utushin (2009-08-30 10:55) 

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