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スマイルカーブ [Sony・TV]

今日はまずお知らせから。

So-net Blogのリニューアルに伴い“It's a ...”のURLが変更となりましたので、ブックマークされている読者の皆様は、お手数ですが変更をお願いいたします(旧URLでアクセスしても新URLにリダイレクトされるので、問題ないといえば問題ないのですが)。

旧URL http://blog.so-net.ne.jp/its_a/
新URL http://itsa.blog.so-net.ne.jp/

となります。アンダーバーを無くして一文字短くしてみました(^^;

というわけでリニューアル作業中に大きなニュースがあったので、第一弾はそれに触れておきましょう。

大型液晶パネル・モジュールに関する合弁会社設立に向け意向確認覚書を締結

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シャープとソニーが大型液晶の生産合弁会社設立-シャープ「パネル世界一」、ソニー「テレビ世界一」(impress AV Watch)

先週あたりから噂に飛んでいた、SonyとSHARPの液晶パネルにおける提携話は、フタを開けてみるとSHARPが2010年から稼動させる予定の堺工場を独立した別会社とし、それにSonyが1/3の出資をする両社の合弁会社とする(そのための交渉に入る)話でした。

これによりSonyは、Samsungとの合弁会社で、韓国に工場があるS-LCDと並ぶ大型液晶パネルの安定供給元を確保して、テレビ市場世界No.1の地位をより確実なものと出来ますし、SHARPのほうも、東芝・パイオニアをはるかに上回る大型顧客の獲得で、来年にも起こると言われている「世界的な液晶パネルの供給過剰」による堺工場の稼働率低下リスクが減少し、約3,800億円にも上る投資負担も軽減されることになります。

これで昔は乱立していた日本の液晶テレビメーカーも、VA系の「SHARP+Sony+東芝+パイオニア」陣営と、IPS系の「Panasonic+日立+キヤノン」陣営の二つに大きく再編され、この二陣営で台湾・中国・韓国のメーカーに対抗していくことになったというわけです(SonyだけはSamsungとも提携してリスクヘッジしている)。

今回の提携、普通に考えればSony・SHARPどちらにとってもメリットのある話なのですが、僕は一歩間違うと、どちらかが大損になってしまう危険性もはらんでいるのでは?と感じました。

 

数年前から電機業界やエコノミスト・アナリストの間で流行ってる言葉に「スマイルカーブ」と言う言葉があります。

スマイルカーブとは、台湾のPCメーカーAcerの創業者スタン・シー会長がパソコンの各製造過程での付加価値の特徴を述べたのが始まりとされ、電子機器産業において製品が開発から販売にいたるまでの流れの中で、スタート地点の「製品企画・開発」とゴール地点の「アフターサービス」が最も付加価値が高く、ブランド向上や利益を生み出すのに対し、「部品調達」「組み立て・生産」「販売」などの中間部分が付加価値が低く利益率も低いことから、グラフにすると人が笑っているような曲線を描くのでそう呼ばれています。

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スマイル・カーブ(日経Tech-on!NE用語より)

この理論に良く当てはまるのがパソコン業界で、スマイルカーブの左端に位置する、MicrosoftやIntelという基幹となるソフト・部品を供給する企業と、右端に位置するWal-martやAmazonのような小売業者や、DELLのような直販業者が高い利益を上げているのに対し、中間に位置する日本のパソコンメーカーは、なかなか利益が上がらないという状況が続いています。

このパソコン業界のスマイルカーブ理論が、液晶テレビ業界に当てはまった場合、SHARPはIntelのような基幹部品を供給する左端の強い立場となり、自前ではパネルを作らずテレビを組み立てているだけのSonyが、儲からない真ん中の立場にたたされることになってしまう結果も考えられます。

実際Panasonicもかなり以前から、プラズマパネルなど「自分たちで技術を持ちブラックボックス化する」という路線を貫いており、なんとかしてスマイルカーブの左端を押さえようと必死になっています。

じゃあSonyはやばいのか?と言うと、そうとも言い切れません。同じスマイルカーブ理論でも、ポータブルオーディオ業界では別の結果が出ているからです。

ポータブルオーディオ業界でスマイルカーブの左端に位置するのは、iPodを企画・開発したAppleになります。しかもAppleはiTunes Storeという右端のポジションも押さえているので、iPodファミリーという一つの製品群で莫大な利益を生み出しています。ご存知のとおりAppleという企業は工場を持たないファブレス企業で、MacもiPodもハードウェアの生産は、ファウンダリーやEMSと呼ばれる台湾や中国の生産専門メーカーが行います。自前で高い生産技術は持たなくても、製品の企画力と販売時のブランド力があれば利益は生み出せるというわけです。

このようにポータブルオーディオ業界と同じ展開になると、液晶テレビ業界でも製品の企画・開発を行うSonyがスマイルカーブの左端に位置し、Sonyよりブランド力に劣るSHARPはただパネル生産を担当するだけで、あまり儲からない真ん中の立場にやってくることも十分ありえるわけです。

SonyがAppleのような存在になるのか、はたまたSHARPがIntelのような存在になるのか、業界ごとに事情は大きく異なるので、全く同じ結果をたどることは無いと思われますが、液晶パネルがIntelのCPUや昔のSonyのトリニトロンブラウン管のように、「他にはない唯一無二」の存在でない(そこらの台湾・中国・韓国メーカーが同じレベルのパネルを作れてしまう)以上、SHARPがIntelのような存在になるのはかなり難しいかなと予想しています。

そう考えると今回のSonyはかなりしたたかです。

ついこの間まで世間に「技術のSony」と思われ、実際に自前の高い生産技術で数々の「他にない」製品を生み出してきたSonyが、あっさりと完全自前でのパネル生産という面子を放棄したことで、SHARPの半分の投資額で第10世代パネルという最新パネル工場を手に入れ、もう一つの提携先であり、テレビ市場における最大のライバルでもあるSamsungに対しても、より有利な状況で競争を進められる立場に立ったのです。

これで「中継ぎ」である液晶テレビのトップを維持しながら、10年後にはやってくるであろう有機EL時代に向けた先行開発・投資により専念することが出来ますし、いざ大型有機ELを大量生産する工場が必要となったら、単独で建てるなりSHARPかSamsungとさらなる提携をするなりすればよく、路線は選び放題となります(大型の有機ELの基板となるアモルファスシリコンTFT基板は、液晶用のものを転用するのが手っ取り早い)。これに対抗できるのは、すでに有機ELも視野に入れた提携を行っている「Panasonic+日立+キヤノン」陣営しかいないでしょう。

 

というわけで、やはりSonyは日本のテレビメーカーを先頭で引っ張っていく存在なんだなと、改めて感じた今度の提携話でした。そして対抗勢力の筆頭はここでも永遠のライバルPanasonicになっちゃうんですね。


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コメント 3

Riever

今回SonyはSHARPとの提携では1/3投資ですし、Samsungからも調達できますし、私も同じように思いました。
現時点で(積極的に液晶参入せず、外部から調達する辺り)あくまでSonyは有機ELを目的としているなと感じさせられますね。

他にない唯一無二の技術として(正確にはVictorなどもですね)リアプロがありましたが、結局消滅してしまったので、その分有機ELを頑張って欲しいと期待しています。
by Riever (2008-02-27 21:14) 

Virgo

ソネブロ、リニューアル後に、流石のエントリーですねぇ。

ともすれば地味に見える提携話がここまで掘り下げて頂ければとても判りやすいです。m(__)m

これからもテレビの最先端を走る下地が出来たって事ですよね。

後は飛躍するための、燃料を蓄えてくれれば、ユーザーにはバラ色のテレビライフがやってくる。

なんだか、ワクワクしてきますねぇ。



by Virgo (2008-02-27 21:24) 

そよかぜ

一番の問題は液晶パネルが寡占化して行くことで
パネルメーカーによる市場支配が進むことですね。。
PCで言うところのインテルの様に。
大型化して投資が増大する一方で、商品自体の
コストが下がると必然的に参入できる企業は減りますので。
by そよかぜ (2008-02-27 22:23) 

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